【文春3位】注目作「♯真相をお話しします」・・・ 主人公を襲う”違和感”の正体 伏線回収が見事な最終話が秀逸

2022年12月4日

一部の書店ランキングで1位になるなど、注目を集めている結城真一郎「♯真相をお話しします」(新潮社)。
とある本屋で見かけて気にはなっていたのですが、帯に書かれてある「『絶対に読者を騙してやろう』という執念」「凄い間違い探し」みたいな売り文句に、何だかトリッキーなだけの小説なのかな~という躊躇いもあって迷っていました。

いざ読んでみたら、まあ思ったほどのトンデモ感はなく、非常に楽しく読めたので、できるだけネタバレ無しで紹介したいと思います。
※今年の「週刊文春ミステリーランキング」では3位を獲得しています。

5つの短編に共通する展開 ”意外な事実”に無理やり感も

「♯真相をお話しします」は、短編5つからなる短編集。
タイトルに「♯(ハッシュタグ)」と付いているので、SNSが通しテーマなのかとも思いますが、確かに「マッチングアプリ」とか「リモート飲み会」とか「YouTube」とか、ネット社会ならではの“小道具”が重要な役割を果たす部分はありますが、ただ現代社会を描く小説であれば、こうした“小道具”を扱うのは自然と言えば自然。そういうものに詳しくない人が戸惑うとしたら、4編目の「三角奸計」くらいですかね・・・

むしろ5編の共通点としては、それぞれの主人公が、ある人物と会話を交わし時間を過ごすうちに何か違和感のようなものを感じてしまう、その違和感がどんどん大きくなって、やがて意外な事実が明らかになる・・・ という展開でしょうか。

例えば1編目の「惨者面談」では、家庭教師の営業のために、ある家庭を訪ねた大学生が、母子と話すうちに違和感を覚え始める、3編目の「パンドラ」では第三者の女性への精子提供を決断した男性が、相手の女性と出会う、その直後から女性の言動には違和感(というか不審なところ)がいっぱいで・・・という感じです。

実のところ、この違和感の正体は、どの話でもそれほど難しい謎ではありません。「あ~、たぶんこういうことなんだろうな」と読めるように、恐らく意図的に書かれています。作者の狙いは、読者が「やっぱり」と思ったところでもうひとつ、どんでん返しを用意して、それで驚かせようとしているのだと私は感じました。

一方で、その「もう一丁!」の部分が、結構、無理あるな~と思わされる話もありました。「そこまで偶然が重なるか?」とか「何でそこまでややこしい仕掛けをしてるの?」とか。
もちろん本格ミステリーというのは、密室にしろアリバイ作りにしろ、「そこまでするなんてあり得ないでしょう?」みたいなトリックが当たり前のように登場するわけですが、この「♯真相をお話しします」は、日常ミステリー的なテイストを取りながら、本格ミステリー的な真相を提示して読者の意表を突く、そんな短編集でした。

そういうトリックが正に炸裂しているのが最終話の「♯拡散希望」です。
これについては、もう少し詳しく紹介したく、以下、ネタバレにならない範囲で書いていきます。かなり内容に踏み込みますのでご注意ください。

小学6年生が推理した犯人とは? 謎の解決に納得感

「♯拡散希望」の主人公は現在、小学6年生の渡辺珠穆朗瑪(チョモランマ)くん。長崎県の匁島(もんめじま)というところで暮らしています。

前半は、彼と彼の家族、そして彼を含め4人しかいない島の小学校の生徒たちとの何気ない日々が描かれます。実はこの部分に、これでもかと言うくらい、伏線が散りばめられているのです。

渡辺家のリビングで毎日行われる「一日の振り返り」という習慣、自宅にある「開かずの間」、「チョモランマ」という、キラキラネームというにはあまりに突飛な名前、小学3年生で初めてiPhoneを見たときの子どもたちのやりとり・・・
当時、島を訪れていたYouTuberがその後、殺害されたことでチョモランマくんの周囲で何かが変わってしまいます。様々な違和感を抱えながら3年が経ち、小学校卒業も間近という時に、4人の生徒のうち唯一の島生まれである、凛子が死んでしまう。最後はその犯人当てがクライマックスになります。

探偵役はチョモランマくんで、彼の友達も含めて、言動がどんどん小学生離れしていくのがいかがなものかとは思います。とはいえ先述の伏線が回収される・・・様々な謎が解決されるくだりは非常に面白いし納得感があります。
YouTuberが殺された理由、犯人が「誰かがやらなきゃいけなかった」と供述した理由・・・
すべてが凛子殺害の動機へとつながっていたのでした。

さすがに日本推理作家協会賞の短編部門を受賞した作品というだけのことはあります。この「♯拡散希望」を読むだけでも、「♯真相をお話しします」という本を買う価値はありました。

Posted by ブラックバード