香川照之の演技力炸裂!WOWOWドラマ「災」は眠れなくなる”ホラー”サスペンス

怖い… 香川照之が怖い。
WOWOWで放映中のドラマ「災」。全6話のうち、4話までが放送されました。1話ごとに異なる登場人物が出てきて、それぞれが悲劇的な結末を迎えるわけですが、各エピソードに、違った名前で異なった雰囲気の香川照之が登場します(どういうことかは後で説明します)。
そして彼が、登場するだけで怖い、番組の中に存在しているだけで怖いのです。
事件の謎を追う刑事も登場してくるし、非現実的なことも起きないので、ジャンルとしてはミステリーなのでしょうが(WOWOW的には「サイコ・サスペンス」)、全編に流れる不穏な空気、不協和音を駆使した音楽、そしてこの香川照之の怪演が相まって、ホラーとしか言いようのない…深夜に見ると寝られなくなるようなドラマになっています。
平凡な主人公を襲う”災難” トリガーは何なのか?
第1話は2019年の千葉から始まります。
安達祐実演じる女性(「みっちゃん」と呼ばれている)が、早朝の道を自転車で走っている。いきなり怪しい雰囲気なのですが、ここではまだ何も起こりません。むしろ平凡な日常の風景なのです。
みっちゃんは漁師たちの朝食を賄う食堂を手伝っています。で、彼女がレジで働いている時、言葉を交わすのが香川照之。ぼさぼさの髪で、荒くれの漁師という印象です。2人の接触はこの瞬間だけ。
次のシーン。洗い物をしているみっちゃんの背後で誰かがたたずんでいます。ステンレス?の壁にその姿が映っているのですが、顔はよくわかりません。でもみっちゃんをじっと見つめているのはわかります。
そして数分後、番組が始まって約6分後にみっちゃんは思わぬ姿で発見されます。
流れる女声コーラスの不穏な音楽。
ここまでの展開がおおむねそれぞれのエピソードのひな型になっていて、毎回、最後の最後で悲劇が起きるのです。
主人公は平凡な生活を送る普通の人たち。普通の人たちなりに様々な悩みを抱えています。
大学受験したいが家庭の事情で進学できるかどうか悩む受験生(中島セナ)。
飲酒運転による死亡事故を起こした過去を持つトラック運転手(松田龍平)。
真面目に働いてきたが、突然、クビを言い渡される清掃員(内田慈)。
赤字に悩む老舗旅館の支配人(シソンヌ・じろう 彼は平凡な生活と少し違うかもしれませんね)。

どうも人生がうまく行っていないと感じている彼ら彼女ら。その人生にふと入り込んでくるのが香川演じる謎の男です。
彼の立場、職業、そして見た目も名前も、エピソードごとに全く違うのが面白い。
受験生に対しては、温厚で優しい塾の講師。
トラック運転手に対しては、陽気で人懐っこい同僚運転手。
清掃員が働くショッピングモールでは、口下手で片足を引きずって歩く地味な理髪師。
旅館の支配人に対しては、酒を納品する業者のひとりとして登場します。
そして…一部例外はあるのですが、主人公が香川演じる男に心を開いて、抱える思いを打ち明けた直後、“災難”は訪れます。そして流れる女声コーラス。
基本的には同じパターンなので、4話目ともなると、「あー、この時がきてしまったか」「ダメだよ、そんな話をしちゃ…」などと思ってしまうのですが、慣れるまでは唐突な展開に、「えっ」と思ってしまいます。
いったい何がトリガーになっているのだろうか?と。
実は3話目で、“事件”には共通点があることが明かされます。
それに気づいたのが神奈川県警の刑事・堂本(中村アン)。それぞれの“事件”は別々の県で起きるのですが、堂本はこれらが一連のものではないかと見当をつけ、“事件”が起きるたびにその県の警察まで出向きます。
ただ、第4話までは警察の登場時間は非常に短いものでした。
しかしどうやら5話目からは事件の真相に向けて話が展開していきそうです。
”ある男”登場シーンで流れる不穏な音楽
それにしても…
改めてこのドラマの全編に漂う不穏な感じは一体どこから来るのでしょう?
例えば第2話のトラック運転手の話では、香川演じる運転手、多田はガテン系というのか、豪放磊落な感じで暗さはみじんも感じさせません。にもかかわらず、彼が画面にいると何か落ち着かない感じがするのです。
(ちなみに各話、彼が最初に登場するシーンでは、不穏な音楽が流れます)
この第2話で言うと、松田龍平演じる倉本はアルコール依存症であり、飲酒運転で人を死なせたという重い過去を背負っています。それ以来、酒を断っているのですが、ことあるごとに周囲の人が酒を飲んでいるシーンが挟まれ、倉本がいつか再び酒に手を出すのではないかという緊張感が続きます。多田がそのきっかけとなるのだろうか… そういう、いわゆる刑事事件ではないけれども、その人にとっての破局が不意に訪れるのではないか、というテンションがそれぞれのエピソードで語られていく、脚本と演出の妙味だと思います。
もちろんその脚本の効果を最大限に生かす香川照之の演技力はすさまじい。
私的な問題で、表舞台から久しく消えていた彼ですが、自分はかつて映画「ゆれる」での彼の演技力に感動した記憶が残っているので、顔芸だけではない香川照之のすごさを改めて実感できて感慨深いです。
残る2話の中で、果たして香川演じる“男”と中村アン演じる刑事・堂本との直接対決はあるのか。
4話までの雰囲気だとアクション系の結末はなさそうなので、この2人が取調室で、あるいはまったく別の場所で向かい合って言葉をぶつけ合うことがあり得るのか(予告編ではそういうシーンはないですよね)。
一体どういう展開になるのか予測は難しいですが、すっきりした解決よりも、余韻の残る…それも不快な余韻が残るドラマになりそうな気がしますね。それもまた楽しみです。