【考察】何だ?この沈黙は… WOWOWドラマ「災」で毎回登場する香川照之の無言 災いの予兆なのか?

いや~、驚いた。
それまで普通の市民(ひとりは旅館経営者だったが)に“災い”が降りかかるパターンを続けてきたWOWOWのドラマ「災」。
それが第5話ではまさかの人物に“災い”が…
本当にあと1話でこの物語は完結するのか。それともシーズン2があるのか。
毎話、異なる登場人物、異なる地域で事件が起きる、この「災」ですが、今回はこれまでの5話に共通して登場している「お約束シーン」について考察してみます。
題して「香川照之 沈黙の謎」。
(以降、ネタバレあります)
刑事との会話で19秒の沈黙 そのあと悲劇が…
今回、香川照之演じる「男」は、神奈川県警の刑事・堂本(中村アン)や飯田(竹原ピストル)らが勤める警察署に用務員として現れます。
胸につけた派遣会社(?)の社員証には「大門宏樹」と書かれています。
署内で作業を続けるうちに何度か飯田と遭遇する大門。やがて事態が急展開します。
実は飯田は、堂本が関心を持っていた一連の死亡事案を独自で捜査していて、第4話で登場した老舗旅館の写真を見ているうちに(この写真は、老舗旅館を紹介する雑誌のカメラマンが撮影したものですかね…)、そこに写っている男が大門にそっくりであることに気づくのです。
そこで飯田は自ら大門に話しかけ、素性を探ろうとします。
しかしそれが仇になったのか、飯田は署内で遺体となって発見されます。
もしこれが大門による犯行であれば、警察署内であまりにも大胆と言わざるを得ないのですが…
今回はその直前、飯田が大門に接触するシーンに注目します。

警察署内の洗濯室で飯田が大門と会話しています。
ひとしきり話した後、「すいません、長々と」と切り上げ、部屋を出ていこうとする飯田。しかしふと振り返って、大門に「何でここで働こうと思ったんですか?」と尋ねます。「え?」と戸惑う大門に飯田は「いやほら、自分の職場でもあるし、何かこの警察署のいいところでもあるのかなと…」と説明。
「それは…」と答え始めただ大門ですが「いくつも応募して…」と言った後、その言葉が途切れ… 沈黙が訪れます。
聞こえるのは洗濯機の回る音だけ。やがて唐突に大門が「採用していただけたのがここだったからです」と答える。
「そうっすか。そりゃそうか」と言って部屋を出ていく飯田。
これが生きている飯田の、最後の姿となりました。
それにしても…大門のあの不自然な沈黙は何だったのだろう?
測ってみると「応募して」から「採用して」まで19秒もの間、無言でした。あまりにも不自然ですよね。しかも飯田の言葉に食い気味で「それは…」と話し始めただけに、唐突に言葉が途切れた感じがします。
この19秒間に必死で理由を考えていたのか?でも「いくつも応募して」と言った時点で「ここだけだった」という答えは当然用意されているはずです。
では何のための沈黙だったのか。
実は第5話まで見てくれば、これが第1話~第4話でも登場した「お約束シーン」であることがわかっています。
香川照之演じる男が、不意に無言になり数十秒の“間”ができる、そういうシーンが毎回繰り返されてきているのです。
それが一体、何を意味するのか。とりあえず第1話から問題のシーンを振り返ってみましょう。
ふと目を上げると… 無言で見つめる香川照之 怖い…
第1話では、母子家庭で将来の進路に悩む北川祐里(中島セナ)が、塾の教室で講師の渡部(香川)から個別に教えてもらっているシーンで“それ”が登場します。

「北川さん、他にやさしくしてくれる人は?親御さんは厳しいの?」と聞く渡部。祐里は「厳しいっていうか、あんまり相手をしてくれなくて…進路の相談もまともにできないくらいで」と言って、ため息をつきうつむきます。
ここで静寂が訪れます。
やがて祐里が目を上げると…渡部が無言で自分を見つめているのです。
これはなかなか怖いシーンです。
さすがに祐里も目を見開いてギョッとした感じになります。しばらくすると渡部がほんの少しだけ、我に返ったような表情を見せ、しゃべり始めます。
「北川さん、今度ここで話すときは何も勉強のことだけじゃなくていい。ただの雑談でも何でもいい」などとさらに優しいことを言い始めるので、先ほどまでの緊張感は急速に薄れていきます。
唐突に登場したこの無言シーン、祐里が話し終えて、次に渡部がしゃべり始めるまでの沈黙は実に32秒でした。
悩みを打ち明ける教え子の顔をじっと見つめ続ける、その目は何を見て、頭の中では何を考えていたのか。
とにかく彼にとって我を忘れるような32秒間だったのでしょう。
少なくとも第1話においてこの無言シーンは、非常に効果的な演出だったと思います。その後の悲劇的な結末に何らかの関係があると思わせるものでした。
一方、第2話から第4話に関しては、この無言シーンが何を意味するのか、すぐにはわかりません。
まず第2話ですが、運送会社の倉庫で、トラック運転手の倉本(松田龍平)と多田(香川)が鰻弁当を食べている場面です。
多田が、ふと「おれね、誰か別の人になりたいって、いつも思ってるの。空っぽだからさ、おれ」と打ち明けます。倉本が少しとまどいながら「そんな…今のままで十分、素敵じゃないですか」とフォローすると…
多田が無言で倉本をじっと見つめるのです。
そして19秒後。多田は照れたように「いやあ、素敵って、そんなことないよ」と反応を返します。

第3話では理髪店で働く皆川(藤原季節)が街中で同僚の志村(香川)に出会います。
皆川が「次の予定まで時間あるからどうしようかなと思って」と言うと、志村は「せっかくですから一杯どうですか」と誘ってくる。まだ午前中なので、「今から飲むんですか?」と驚く皆川。
吃音の障害を持つ志村は「ちょ、ちょっとでも飲まないと…」と言って、そこで言葉に詰まります。
そして無言で皆川を見つめます。
20秒後、志村はようやく「…まともに話せないので」と口に出し、皆川は「ハハハハ。シムさん、立派な酒飲みだなぁ」と笑い飛ばします。
第4話の当該シーンはさらに唐突です。
老舗旅館の経営立て直しに奔走する主人公の弟・岸俊哉(奥野瑛太)が、森の中で苔を採取している出入業者の男(香川)に遭遇します。
男は苔を見つめながら「苔はいいですよー。多様性、美しさ、不思議さ…」と言ったところで無言になります。そのまま音が消え、しゃがみこむ男と立ち尽くす俊哉の映像は、まるで静止画のように見えます。

第1話に次ぐ長さの26秒の沈黙の後、男は何ごともなかったように「…生き物としての強さ。最近収集を始めたんですけどね。見れば見るほど引き込まれます」と話すのです。
数十秒の沈黙… 香川演じる「男」が何を考えているのか考察する
制作側が意図的に、これらの無言シーンを入れ込んでいることは間違いありません。撮影現場では俳優や撮影スタッフに対し、なぜこれほどの長い間、沈黙にするのか、きちんと説明していることと思います。
ではそれが何を意味するのか。各話の共通点は何なのか。
いろいろ考えてみましたが、はっきりとはわからないというのが正直なところです。
最も考えられるのが、無言シーンの前後のやりとりが引き金となって、その会話相手に“災い”が訪れた可能性。
ただし第3話・第4話では、命を落とすのは会話相手とは別の人物ですし、特に第4話の会話はそういうフラグとは程遠い内容に思えます。(ほとんど独り言だし)
では他に考えられることは何か?
実はひとつだけ比較的しっくりする仮説を思いつきました。ただしうまくハマるのは第2話~第4話に限られてしまいますが。
その仮説とは… 無言の瞬間、香川照之演じる男は、前のエピソードの犠牲者に思いを馳せているのではないか?というものです。
例えば第2話で「素敵じゃないですか」と言われて無言になる多田。
実は第1話で塾講師の渡部が、教え子の祐里から「先生はどうしてそんなに優しくしてくれるんですか?」と問われて「優しい?」と問い返すシーンがあります。
第3話で「ちょっとでも飲まないと…」と言ったあと黙り込む志村ですが、第2話の倉本はアルコール依存症から立ち直るために断酒中で、「ちょっとでも飲むと」元の自分に戻ってしまうのではないかと怯えていました。

第4話で苔の魅力を語りながら無言になる男。
第3話で死亡する清掃員の伊織(内田慈)は「自生している苔を取ってきて部屋で育てる」のが趣味だと語っていました。
どうでしょうか。
何となく、この3つに関してはうまく説明できているような気がします。
ただし第5話の飯田との会話での無言シーンは第4話と結びつけるのがなかなか難しく、また第1話の無言シーンが冒頭で出てくるみっちゃん死亡事案と関係あるのかも判断しきれません。
というわけで、はっきりした結論が出せない考察になってしまったのは残念ですが、いよいよ第6話を残すのみとなった「災」。
一連の事件の謎は解決されるのか、堂本と「男」の対決はあるのか、など大注目ですが、合わせて、最終話でもこの無言シーンがきっと登場するはずで、その時には改めて考察してみたいと思います。