南北が協力し合って内戦のソマリアから脱出! 韓国映画「モガディシュ」は大迫力の快作

2022年7月19日

「モガディシュ」HPより

内戦が発生したアフリカのソマリアで、韓国と北朝鮮の大使館員たちが決死の脱出を試みる… あらすじはこれだけで表現できます。しかしその脱出劇が成功するまでがいかに壮絶で大変だったか。実話をもとにした韓国映画。

去年、韓国で最もヒットした作品ということですが、いや~すごい! 
脚本、演技、演出、どれもすごい映画で、何と言っても制作陣の、「ハリウッド並みの映画を作ってやる!」という気概が満ち溢れています。

韓国映画の勢いを感じさせる大迫力のエンタメ映画、感想を書いていきます。
(ネタバレ注意)

映画「モガディシュ」公式HPはこちら

内戦の恐ろしさリアルに 予算をかけた衝突シーン 

1990年代、国連への加盟を目指しソマリアでロビー活動を激化させる韓国と北朝鮮。
韓国大使のハンと北朝鮮大使のリムはライバル同士で、それぞれの部下である参事官も、何かと対立し合っています。
そんな中、ソマリア政府に対する反乱軍の攻撃が激化し、国内は一気に内戦状態に。暴徒に大使館を追われた北朝鮮の大使館員たちは、やむなく韓国大使館に助けを求めるのですが・・・

まず何と言っても、ソマリア内戦の描写がリアルで恐ろしい。軍人同士が対立しているのではなく、反乱軍はもうその辺の不良が銃を持っている状態で、子供たちだって平気で銃をぶっ放します。長らく続いたソマリアの内戦は国外からも本当に恐れられましたが、この映画ではその恐怖を余すところなく描いています。

本来であれば外交官として守られるはずの大使館員たちが、そういう無法状態に置かれたときにどうなるのか・・・ ただの無力な一市民です。

かろうじて外貨を持っている間は、訓練された警備兵を雇うことができます。しかし混乱の中で、外貨を引き出せなくなると、警備兵もいなくなって、絶体絶命の危機に陥るのです。

この映画の何がすごいって、とにかく政府軍と反乱軍の衝突シーンに人をかけているんです。
それは純粋に規模の問題として、無数の人々が入り乱れることで、ものすごい迫力が生まれているのです。さらにはそのそれぞれがきちんと演技をしている・・・ 闘い続ける人、子供を失った母、恐らく現地で雇われたアフリカ人だと思いますが、ちゃんと演技指導が行われているということですね。カネと手間、かけるべきところにかかっています。

カーチェイスはちょっと盛り過ぎ?

そしてもうひとつはクライマックスのカーチェイス。

この映画が基本は実話をもとにしているとしても、このシーンは絶対に創作でしょ、と思うくらい派手なシーンの連続です。大使館員ったって普通の人なんだから(徴兵制のある韓国だと言っても)、こんなカーチェイスを繰り広げて、ほぼ全員が無事なんてあり得ないでしょう・・・と思います。

実はここだけが、私にとってはこの映画のマイナス部分というか・・・ 実話をもとにしていると言われなければ、何の問題もなかったんですよ。でも、もしかして本当に脱出劇の途中で攻撃されることがあったら、こんなにうまいこと行くはずないよな~と思ってしまったのが、クライマックスでのめりこみ切れなかった、非常に残念なところでした。

それにしても・・・ もちろん同じ民族が国を分けて対立し合うというのは悲劇ではありますが、「愛の不時着」しかり「ペーパー・ハウス・コリア」しかり、南北の対立と協調というのは、韓国人の琴線に触れるテーマなのでしょうし、そういう対立のない日本人にとっても非常に興味深い話です。

特にこの1990年代、北朝鮮の大使館員を、内戦という非常事態とはいえ、韓国の「領土」である大使館の敷地内に入れることは、大変な政治的リスクがあり、北の人たちが「転向」したのだと説明しなければ受け入れられないものであり、北朝鮮側にとっても、本国に知られたら恐らく致命的になる事態だったのでしょう。

それでもそこからの韓国ハン大使と北朝鮮リム大使の決断は柔軟かつ現実的で、若い参事官同士のぶつかり合いも、両国当事者の本音を表していて、日本人でも非常にわかりやすい、そして共感しやすい状況を見事に描いてくれていました。

素晴らしい俳優たちの演技 南北大使に注目

キム・ユンソク(HPより)

最後に・・・南北それぞれの大使館員を演じる役者たちがすばらしい。

ハン大使役のキム・ユンソクは、韓国映画ならではの、いい加減さと男気を兼ね備えた、いざとなったら頼りになる男を、これ以上ないくらいナチュラルに演じているし、その部下のカン参事官役チョ・インソンも、北朝鮮嫌いの、ただの無鉄砲男かと思いきや、最終的には「同胞」を思いやる、スマートな若者を演じきっています。

そしてリム大使役のホ・ジュノ・・・ 渋い。常に淡々として運命を受け入れるような態度でありながら、決断すべき時は南北の垣根を越えて決断する、そこにブレがない。

この映画のすごく好感が持てるところは、北の人たちを決してネガティブに描かないのです。彼らには彼らで、本国に帰れば様々な事情に縛られてしまうけど、遠いアフリカの地にいれば、同じ朝鮮の人たちであり、協力し合えるし、同じ道を目指せる。

恐らくそういうところが、韓国で大ヒットしたひとつの要因だろうし、日本人が見ても感動してしまう重要な要素なのだなと感じました。

映画

Posted by ブラックバード