「少し違和感があります・・・」 完結のWOWOW「邪神の天秤 公安分析班」 解明していない謎が気になる

WOWOWで10回にわたって放送された連続ドラマW「邪神の天秤 公安分析班」がついに完結しました。
全編にあふれる緊張感、外連味たっぷりの展開に最後まで目が離せないドラマでした。

第9話で意外な犯人が明らかになり、さらに最終話でクライマックスを迎える・・・
サーッと見ただけでは、「?」が残る部分も多々あったので、WOWOWオンデマンドで何度か見返して、ようやく納得がいったところも。
あー、ここで伏線が回収されていたのか(ここで伏線を張っていたのか)、というシーンに気づき、改めて良くできた脚本だなあと思った次第です。

ただ、それでもわからない謎もいくつかあります。
謎というよりも「違和感」かな・・・
このドラマの中でも、青木崇高さん演じる主人公・鷹野をはじめとして公安の人たちが度々口にする「違和感があります」、このせりふがミステリーっぽくて、すごく好きなんですが、とりあえず自分なりに「残された違和感」についても考えておきたいと思います。

真犯人の名前も含めて、以降は完全ネタバレとなりますのでご注意ください。

意外な真犯人 わかった瞬間、ゾクッと <ネタバレあり>

第9話で判明した真犯人は、瀧内公美さん演じる「宮内仁美」でした。
ただし、この名前は他人の名前を乗っ取ったもので、本当の名前はどうやら「美雪」のようです。(苗字は不明)

彼女の母親は、水商売や風俗の仕事を転々としながら、とある「ドヤ街」のようなところ(この街の雰囲気がすばらしいのですが、ロケ地はどこなんでしょう・・・)に流れつき、病のため彼女を残して亡くなります。

親を亡くした彼女を育てたのが、この街に住みついていた里村でした。
里村は革命思想を持つテログループ「葬儀屋」のメンバーだったのですが、最も武闘派だった彼についていけなくなった他のメンバーが、彼を殺害。
「育ての親」を失った「宮内仁美」が、裏切ったメンバーを殺していったというのが、「邪神の天秤」事件の構図でした。

「宮内仁美」は、過激派組織「民族共闘戦線(民共)」に鷹野が潜入させた「S(スパイ)」である赤崎の婚約者として登場します。組織に監禁された赤崎を救出しようと、組織の建物内に潜入するなど、気丈なところは見せますが、いわゆる猟奇殺人の犯人だというにはギャップがあり過ぎて、「まさかこの人が・・・」という意外性は十分でした。

第9話、里村が育てていたのが実は女性だったとわかる一連のシーンも秀逸でした。
「ドヤ街」でワケあり女性の出産を手伝う助産婦から、過去の出産記録を見せてもらう鷹野。当該の記録(赤ん坊の写真付き)を見つけはするのですが、すぐには真相に気づけません。
しかし里村の部屋に残された様々な痕跡から、(恐らく)ふとある人物のことが思い浮かぶ、そこで赤ん坊の写真を裏返してみると、そこには「母テルミと女児」と書かれていた。
そして次のカットは、赤崎の病室に、氷室(鷹野の相棒、松雪泰子さん)といる「宮内仁美」の顔のアップ・・・ いやあ、ここはゾクッとしましたね。

ただ、ちょっと「違和感がある」のは、なぜ里村の子どもが男だと思い込んでいたかというと、最初にその子の話をしてくれた、たどたどしい日本語を話す外国人が、「ヤングボーイがいた。10歳か、もうちょっと上」と言ったからなんですよね。
外国人にはそのくらいの歳の日本人の性別がわからなかったということなのか。

確かに子どもの頃の彼女の映像も何度か出てきますが、男女どちらともとれるように見えます。ただやっぱりそこの説明はあっても良かったですねぇ。明らかにミスリードを仕掛けているので。

最終話とリンクする「生い立ち」エピソード

もうひとつ、彼女の生い立ちに関連して、あとで見直して感心したのは・・・

「宮内仁美」は“婚約者”である赤崎の様子を探る目的で、「民共」の施設に赴き、「組織に入りたい」と申し入れます。
そこで組織側のリーダーが、彼女に面接を行います。
実は事前に鷹野が彼女に「民共の理念を丸暗記せよ」と教え込んでいて、それはクリアするのですが、「なぜ我々の理念に共感したのか、自身の具体的なエピソードを交えて答えよ」という予期せぬ質問が投げかけられます。
それに対して彼女は、「私は貧乏だったが、おカネがないことよりも誰からも助けてもらえなかったことのほうが辛かった。どんなに大きな声で叫んでも私の声が誰かに届くことはなかった」とアドリブで静かに語ります。

これが最終話での鷹野による取り調べで露わになる、彼女の思いとリンクしてきて、「ああ、そうだったのか。ここでの語りは彼女の本音だったのか」と、後からわかるようになっています。

これも振り返って気が付いてみると鳥肌ものの伏線です。

一方で、この一連の彼女の行動についても、どうにも「違和感があります」。
なぜ彼女は、赤崎のためにここまでしたのでしょう?

彼女は「公安の動きを探るため」、赤崎の婚約者になりすまして鷹野に接近したとされています。
その時点で赤崎は、組織内で活動しながら「S」として動いているわけですが、別に拘束されているわけではないので、本物の宮内仁美と連絡を取ったり会うこともできました。それは偽「宮内仁美」にとっては不都合なので、組織のリーダーに「スパイがいる」と密告して、赤崎を監禁させた、そこまではわかります。

赤崎はボコボコにされて虫の息のまま監禁されているわけですから、「宮内仁美」は、彼をそのままにしておくのが一番いいはず。
なのになぜ危険を冒して組織内に潜入するような行動をとったのか。

関連して、もっと言うと、赤崎が救出されて病院に入れられた後も、彼女はけなげに付き添っています。ここにも「違和感があります」。
もちろん、重体の婚約者に付き添っていないと怪しまれるわけですが、そもそもそこまでして彼女は何を探りたかったのか。

この時点で彼女が赤崎に付き添っていたところで、それほど公安の情報が得られるとは思えません。
例えば公安は元「葬儀屋」メンバーの堤を尾行し、里村の白骨死体を発見する、そして里村の遺志を受け継ぐ何者かが殺しを重ねていると推測して堤に警備をつけるのですが、こうした動きは、赤崎の婚約者になりすましていても到底つかめるものではないでしょう。

真犯人はなぜ公安を出し抜けたのか

そういう意味では、最大の違和感は、「宮内仁美」があまりに公安を出し抜きすぎている、ということでしょうか。
かつての「葬儀屋」には国会議員もいて、警察情報も手に入れることができていたようです。しかし、単身のテロリストとなった彼女が、どうやったらここまで警察に対して先手・先手を打ち続けられたのか。
稀代の天才犯罪者だったのか。でもそういう雰囲気でもないんですよね・・・

と、ここまでは「違和感」なのですが、最後にひとつだけ、「それはないだろー」と思ったシーン。

新「葬儀屋」に狙われるのを警戒して、鷹野たちは堤に警備をつけるのですが、一本の電話によってそれが解除され、堤は殺されてしまいます。電話をかけてきたのは、氷室の名をかたった「宮内仁美」・・・
ということなんですが、これはあり得ないですよね。

まず「宮内仁美」はどうやって、警備解除を指示できる部署の連絡先を知っていたのか。まさか代表電話にかけて「警備担当者に回してくれ」、と言ったわけではないでしょう。
そして、もし電話がかけられたとして、当然発信者は確認されるだろうし、これだけ重大な任務を電話一本で警察が解除することは(別に私は警察関係者ではありませんが)普通ないでしょう。
(至急警備をつけろ、なら電話一本で動くかもしれませんが、解除は急がないので、折り返して、本当に解除していいのか確認するはずです)

このドラマは、以前も書いたように、元公安刑事に監修を依頼しただけあって、相当リアルに作り込まれていると思うのですが、こういうちょっとした、だけどストーリーを左右するようなところに齟齬があると、少なくとも私は興ざめしてしまいます。

そこだけが、ほんと残念でした。

と、何だかケチをつけてばっかりみたいですが、公安の皆さんの熱演、瀧内さんの怪演で本当に見ごたえのあるドラマでした。

実は最終話を待つまでの間に、見ていなかった「殺人分析班」の1つ目、「石の繭」を見てみたのですが、同じ原作者、同じ監督、同じ青木崇高さん出演であっても、こちらのほうがまだ、普通の刑事ドラマに近いところがありますね。

それは捜査一課を扱っているということもあるでしょう。
鷹野も、「公安分析班」では飄々とした感じですが、「石の繭」では厳しい先輩刑事、といった印象です。

恐らくシリーズを重ねて、より世界観が確立してきて、さらに「公安」の世界を初めて扱うということで、今回のような深みのある、独特のドラマが誕生したのではないでしょうか。

恐らく「公安分析班」の第2弾もそのうち作られるでしょうから、それまでに「殺人分析班」の残ったシリーズを見て、新作を楽しみに待ちたいと思います。