WOWOWのドラマ「フェンス」で脚本家・野木亜紀子(「逃げ恥」「アンナチュラル」)は沖縄基地問題をどう描いたか 「ジェンダー」もテーマに

2023年4月18日

WOWOWのオリジナルドラマ「フェンス」。
シリーズ5話が既に完結したのですが、重いテーマ設定に加えて、内容そのものにも思うところがあり、ここで紹介するのが遅れていました。

とにかく、あの「逃げるは恥だが役に立つ」「アンナチュラル」の脚本家、野木亜紀子さんが沖縄の米軍基地問題をテーマに描いたということで、始まる前から大注目していたのですが、想像以上に沖縄の問題と、もうひとつ女性(ジェンダー)の問題が大きなテーマとなっていて、見る人に鋭く問いかけてくるドラマでした。

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「肌の色の違う女性バディが」「沖縄を舞台に」

WOWOWのHPではこんなキャッチコピーが掲げられています。

「日本ドラマ史上初の肌の色の違う女性バディが、復帰50年を迎えた沖縄を舞台に性的暴行事件の真相を追う、エンターテインメント・クライムサスペンス!!」

既にここで「女性バディ」と「沖縄」というキーワードが示されているわけですが、実際にドラマを見ると「肌の色が違う」という部分も大きなカギとなってきます。

主人公2人のうちのひとり、宮本エリアナさん演じる大嶺桜は、米兵を父に持つブラックミックスの女性。でもその父は本国に帰ってしまっていて桜にはその記憶が全くありません。

米軍基地のある沖縄ならではの問題ではあるのですが、見た目が黒人に見えるのに英語が全くわからない桜は、日本人からもアメリカ人からもよそ者のように見られてしまう。
そう、このドラマではミックスの人たちのアイデンティティの問題もひそかに取り込まれているのです。

ストーリーとしては第1回のあらすじを紹介しておきましょう。

雑誌ライターのキー(松岡茉優)は米兵による性的暴行事件の被害を訴えるブラックミックスの女性・桜(宮本エリアナ)を取材するため、沖縄を訪れた。桜の供述には不審点があった。キーは桜に接近し、桜の祖母・ヨシ(吉田妙子)が沖縄戦体験者で平和運動に参加していることなどを聞く。一方でキーはキャバクラ時代の客だった県警の警察官・伊佐(青木崇高)と再会し、米軍犯罪捜査の厳しい現実を知る。訴えに隠された真実とは?

「MIU404」で見せた問題意識

野木さん脚本のドラマを初めて見たのは「空飛ぶ広報室」でした。
ただこれは原作ものだったということもあり、当時は脚本家が誰かというのにも特に注目せず・・・

すごいなと思い始めたのはやはり、「逃げ恥」を経て、オリジナルの「アンナチュラル」を見た時ですかね。
一話ごとの完成度の一方、登場人物たちの過去に絡む事件がシリーズ序盤から示唆されつつ終盤で大きく展開する、その巧みさとサスペンスは本当に見事でした。

そのあとの「MIU404」では、外国人労働者の問題を扱ったり、ジェンダー差別についても織り込まれていたりと、今回の「フェンス」につながるような社会問題への意識を強く感じさせられました。

性別は違いますが、「バディ」ものという設定も通じるものがありますね。
(同時期の映画「罪の声」も「バディ」ものと言えそうです)

その野木亜紀子さんが満を持して描いた沖縄問題は、まさに「ド直球」という感じです。

米兵によるものと思われるレイプ事件、米軍基地の辺野古移設問題、日米地位協定について、松岡茉優さん演じるキーこと小松綺絵の取材を通じて詳しく解説されていきます。

そしてこう問いかけられます。
「本土の人は、こんなことも知らないの?知らないよね」

一方、桜との交流の中で、自身の過去と向き合い始める綺絵。
そこには母との関係を悪化させたある事件がありました。ひとりの女性の人生を変えてしまった理不尽な出来事。

そうしたエピソード、そして沖縄で起きるレイプ事件の大半が泣き寝入りで終わっているという事実などから、女性たちがこの社会で置かれている立場が浮かび上がってきます。
そこには野木さんの“怒り”のようなものすら感じられるのです。

最終話。物語が終わろうかというところで、綺絵が警察官の伊佐にぶつける言葉がこの番組が投げかけるテーマを見事に言い表しています。
「私もそれ(被害を訴え出ること)が正しいと思う。でも、この社会が正しくないから、被害者が名乗り出ることが難しい。この世界が間違ってるから、正しいことができないんだよ」

もしかしたら地上波では実現できなかった企画かもしれません。
この問題に真っ向から向き合い、ドラマ化して訴えようとした野木さんとWOWOW制作関係者に敬意を表したいと思います。

最終話の「意外な展開」は必要だったのか

と、言いつつ冒頭に記したように、ドラマの内容としては思うところもあります。

物語は実は最終話で、かなり意外な展開を見せるのですが、果たしてこれはどうだったのでしょうか。
「クライムサスペンス」と銘打っているだけに、こうした意外な展開も必要だったのかもしれませんが、私には取ってつけた感がぬぐえませんでした。

そして、全体通して感じたのが、「エンタメ感」の不足です。

「アンナチュラル」や「MIU404」のようなミステリー度の高いサスペンスドラマでは、目が離せない展開作りが絶妙だった野木脚本ですが、この「フェンス」では、どうも淡々とし過ぎているというか、「この先どうなるんだろう?」というサスペンスが足りない気がしました。

テーマが重厚なだけに、それをエンタメ要素でグイグイ引っ張ってくれないと、どうしても挫折してしまう視聴者も多かったのではないかと心配です。
最終話の「取ってつけた感」は、そのエンタメ感不足を繕うためだったのだろうか、などと勘ぐってしまうくらいです。

松岡茉優さん、そして警察官役の青木崇高さんの演技がさすがで、淡々とした進行でも魅せる場面は多々あったのですが、次の展開が気になって仕方ない・・・というところまでいかなかったのが(野木脚本で期待値が高かっただけに)残念なところでした。

それでも、こうしたテーマを扱うドラマが少しでも増えていくことはとても重要なことだと思うので、次回作にも期待したいと思います。