AppleTVのドキュメンタリー「ボーイズ・ステイト」 少年たちの模擬選挙が大人顔負けの激戦に 予測不能のクライマックスに感動

2022年6月5日

AppleTV 「ボーイズ・ステイト」

少し前の公開なのですが・・・ AppleTVで配信されているドキュメンタリー映画「ボーイズ・ステイト」をようやく見ました。
すごく簡単に言うと、少年たちによる選挙ドキュメンタリー。ただし本当の選挙ではなく、「ボーイズ・ステイト」という「政治キャンプ」で行われる模擬選挙、なのですが・・・

この選挙ドラマが激アツ。
もちろん候補者による、本物顔負けの熱い演説は要注目なのですが、こちらも本物に負けないほど熾烈なネガティブキャンペーンがあったりして、果たして誰が勝つのか、最後までハラハラドキドキさせられます。
登場人物のキャラクターも、ストーリー展開も、作りこまれたドラマ映画のよう。しかしすべてが実際に起きたこと、ドキュメンタリーなのです。

サンダンス映画祭でグランプリを受賞したというこの佳作映画をご紹介します。

「州知事」になるのは誰だ!? 4人の少年を軸に選挙戦が展開

「ボーイズ・ステイト」というのは、アメリカの各州で行われている、「政治合宿」みたいなものだそうです。

今回、カメラが追うのはテキサス州で行われた「ボーイズ・ステイト」。10代の少年1100人が集まり、「州」を運営するための役職・・・司法長官や判事、州知事などを選んでいきます。
議員を選んで議会の審議なども行ったりしますが、メインとなるのはそうした行政・司法の選挙、そして一番重要なのは州知事選挙です。

少年たちは無作為に「連邦党(federalist)」と「国民党(Nationalist)」に分けられ、それぞれの中で予備選挙を行って州知事候補を一人決め、最後は全体の選挙でどちらかの党の候補が州知事に決定するのです。

「政治キャンプ」と言っても、政治を運営する手法などを学ぶのではなく、選挙を実際に行うことこそが学びになる、というのが面白い考え方です。民主主義とは選挙であり、どのようなリーダーをどうやって選ぶのか、そこが政治の基本なんだ・・・ということですね。

大統領選を見ていても、そのお祭り具合は、日本のどんな選挙とも全く違いますよね。10代の(実際は何歳なのでしょう?高校3年生くらい?)少年たちに選挙をやらせても、その盛り上がり方は、さすがだなと思ってしまいます。

争点は・・・「妊娠中絶の是非」と「銃規制」!

さて、この映画では4人の少年にスポットを当てています。
4人とも非常に個性的で、それぞれの形で知事選挙に関わってきます。しかし結局のところ、主人公は国民党から知事選に立候補したスティーブンというメキシコ系の少年です。
彼は民主党のバーニー・サンダースに強い影響を受けていることを認めています。つまり単にリベラルというどころか、社会民主主義という、共和党が一番嫌っている超左派的な民主党政治家をリスペクトしているのです。

一方で、このテキサス州「ボーイズ・ステイト」、ものすごく保守的な少年たちの集まりです。
テキサス州は実際の大統領選挙でも共和党が強い地域ですが近年、民主党が勢力を強めていて、前回の得票率ではトランプ52.1%、バイデン46.5%とかなり拮抗していました。
その要因として比較的民主党支持が多いとされる、ヒスパニック系住民の増加が指摘されていて、スティーブンは正にそういうヒスパニック系の少年だったのですが・・・

どうもこの「ボーイズ・ステイト」では大半が白人であり、多くが共和党の主張と意見を同じくする、というスティーブンにとっては「アウェー」感あふれる場所なのでした。

そして知事選挙の大きな争点となるのが・・・ 
何と本物の政治世界でも大問題となっている、妊娠中絶の是非と銃規制なのです。少年たちの意見はもちろん、共和党の主張通り、妊娠中絶にも銃規制にも「NO」です。ほとんどが。

ところがここでスティーブンです。
実は彼は近所で起きた銃乱射事件の後、「銃規制を求める」デモに参加していました(むしろデモのリーダー的存在だったようです)。そしてその時の様子が写真に残っていたのです!

リベラルなメキシコ系少年を襲う”ネガキャン”

スティーブンは合衆国憲法修正第2条(「国民が武器を保有し携行する権利は侵してはならない」)は尊重しないといけない、と話します。しかし銃を購入する際のチェック強化は必要だとも訴えます。

対抗勢力はスティーブンのデモ参加画像を拡散させ、「あいつは銃規制論者だ!」とネガティブキャンペーンを張ります。正にドロドロの選挙戦・・・ 

それでもスティーブンは自分を攻撃してくる側と真っすぐに向き合います。説明を尽くし、自分の主義・考えを理解してもらおうとします。メキシコ移民の子どもが、言葉によって大衆に訴えかけ自分への支持を呼び掛ける、アメリカが長年信じてきた、本来の民主主義のあり方でしょう。

果たしてスティーブンは勝てるのか。これは正真正銘、筋書きのないドラマです。

映画で主にピックアップするのは彼も含めて4人なわけですが、恐らく撮影スタッフは、当初はもっと多くの少年たちを撮っていたのでしょう。撮影が進むうちに絞っていったのか、あるいは最後まで多くの少年を撮影したうえで、構成・編集の段階で4人に絞ったのか。

とにかくこの4人が最後まで影響を及ぼし合い、絡み合いながら劇的なクライマックスへと続いていく、変な言い方ですが、改めて俳優を使って映画化してもいいくらいの、面白いドキュメンタリーでした。