ハリウッドが本気で東京を撮ったら・・・ 渡辺謙ら出演WOWOWドラマ「TOKYO VICE」のすごさと不思議さ

2022年5月9日

「TOKYO VICE」特設サイトより

話題のドラマ「TOKYO VICE」の先行配信がWOWOWオンデマンドで始まりました。
「ヒート」「コラテラル」のマイケル・マンが監督、渡辺謙とアンセル・エルゴート(映画「ウエスト・サイド・ストーリー」主演)が共演するという、正にハリウッドが本気で作ったドラマです。

全編オール日本ロケ、アンセル・エルゴートは日本の新聞社に勤める記者という役柄で、一体どんな日本が描かれるのか、第1話の配信を期待半分、不安半分で見てみましたが・・・

印象としては、すごくかっこいいんだけど、不思議な後味が残るドラマでした。
初回はアンセル演じる新人記者が、日本的マスコミのやり方に戸惑うようなシーンも多く、何となく居心地の悪さを感じながら見ていました。

そういう印象も含めて、自分なりの感想をまとめてみます。

「マイアミ・バイス」の巨匠が監督した「トーキョー・バイス」

まずはWOWOWのHPから第1話のストーリーです。

「東京の裏社会を追ったアメリカ人記者の実体験に基づくドラマ『TOKYO VICE』。
1990年代の東京。日本の大学に通い、就職のため猛勉強したジェイク(アンセル・エルゴート)は明調新聞の入社試験に臨んだ。答案を最後まで記入できなかったものの、彼は入社することができた。その後、ジェイクは警察担当記者となり、厳しい上司、詠美(菊地凛子)の下で仕事を始める。夜の街に繰り出す中でジェイクは佐藤(笠松将)という千原会の若いヤクザに遭遇、またオニキスというクラブのホステス、サマンサ(レイチェル・ケラー)と出会う」

特設サイトより

このあらすじだけだと、渡辺謙さんは登場しないようですが、実際は第1話のオープニングは、2年後のシーンから始まっているのです。そこでは新聞記者であるジェイクが、渡辺謙さん演じる刑事の片桐とともにヤクザたちとの緊迫感あふれる話し合いに臨みます。

渡辺謙さんは、その後(2年前にさかのぼって)、とある遺体が発見されたという場面でも短く登場するのですが、検分をするその表情・しぐさがもう、ただならぬ存在感で、やっぱり「世界のワタナベ」だと強く感じましたね。

それから登場人物としては、遊び人風の刑事:宮本を演じている伊藤英明さんも、なかなか面白い役柄で、こちらも注目していきたいです。

とまあ、日本人の役者もトップクラス、さらにハリウッドのニュースターにわざわざ日本語を勉強させて主役にして、監督は巨匠マイケル・マン。

一体、WOWOW、どんだけカネがあるんだ?と最初は思いましたが、実はというか、やはりというか、そもそもはアメリカのHBO Maxでの配信を前提に作られたもののようで、WOWOWが共同制作という形にはなっていますが、制作費の大半はアメリカ側から出てるんだろうな~と思われます。

マイケル・マン監督

それにしても・・・ マイケル・マンと言えば「マイアミ・バイス」ですよ。
その彼が監督して「トーキョー・バイス」ですからね。
いやむしろすごいのは、もともと「Tokyo Vice」という本があって、これを元に今回のドラマが作られたんですが、その監督にマイケル・マンを持ってきた、ということですよね。

で、この原作本は本当に日本の上智大学を卒業して、読売新聞に入ったアメリカ人のジェイク・エーデルスタインという方が書いたものだそうで、ドラマの中で主人公が悪戦苦闘する様子は、原作を書いた作者の実体験に基づくものということですかね・・・
この原作を読んでいないので何とも言えませんが、外国人が日本の新聞社に入社すると本当にこんな感じなんだろうか。少なくとも第1話の「不思議な印象」というのはおおむね、そこの違和感から来るものでした。

ハリウッドが描く「東京」の美しさと違和感

特設サイトより

前述のようなオープニングから、2年前に遡る、その最初の展開は好印象です。
ジェイクが常にノートを持ち歩き、居酒屋に入っても、ずっと日本語で書き込む勉強を続けています。アンセル・エルゴートの日本語は決してうまくありませんが、これだけ勉強してるから、しゃべりは多少たどたどしくても日本語の理解はバッチリなんだろうなと思わせてくれます。

問題は入社してからです。
配属先は社会部で、新人はまず警視庁の記者クラブ詰めとなる・・・のですが、本当に彼のような人がいきなりサツ回りになるんですかね。
もし原作者が実際そうだったのなら、きっと日本語がもっとペラペラだったんでしょうね。アンセル君の会話力では、さすがにいきなり警察担当はさせられないし、記事を任せるのもためらわれそうです。

部署の上司(菊地凛子)や同僚に、英語がペラペラの人が多いのも疑問です。
仮に英語をしゃべれたとしても、社会部の仕事に関しては日本語に徹すると思うのですが・・・

・・・というのは、やはり日本人として見ているからの違和感ですよね。
恐らくHBO Maxで見ている日本以外の国の人は、日本はそういうものだと思って見るのでしょう。
アメリカでは企業は、全くの素人を雇って教えていくというより、経験のある即戦力を雇うと聞きますし、新聞記者ならみんな英語を喋れるだろう、くらいに思ってるんじゃないでしょうか。

そう考えていくと、新人記者がいきなり仕事帰りの刑事に「飲みに行きましょう」と誘ってあっさり成功して、一緒に怪しげな店をハシゴすることとか、たまたま関与した2つの事件に同じ会社がかかわっていることに気が付くとか、ご都合主義的なところにもそんなに目くじらを立てることはないのかもしれません。

そういういくつかの違和感はさておいて、全体を覆う緊張感みたいなものはさすがですし、東京のアンダーワールドの描き方、映像美はどんどん引き込まれてしまいます。
制作に携わったWOWOW側のプロデューサーによれば、通行止めができない渋谷の百軒店(ひゃっけんだな:道玄坂上の商店街)でもロケをやっていて、周辺の店には撮影中の営業補償をしっかりするなど、とにかくきちんとお金をかけるんだそうです。

百軒店での映像(特設サイトより)

そういうハリウッド的なお金のつぎ込み方が細かいところまで行われているからこそ、日本オリジナルのドラマでは出せない空気感とか美しさが生まれてくるんでしょうね。

さて、第2話以降は(恐らく)笠松将さん演じる若いヤクザや渡辺謙さん演じる刑事の出番もどんどん増えてきて、緊迫度もどんどん増してくるんだと思います。
5月1日に第2話~第6話を一挙配信ということなので楽しみに待ちたいと思います。